Opus青 I.オーベルマンの谷
よりリサイタルを楽しんでいただけるよう、今日から毎土曜、4回に渡りまして
リサイタル≪Opus青≫でお届けする曲の説明<プログラムノート>を掲載していきます!
記念すべき第一回は、、、
《巡礼の年》フランツ・リスト 1836~1842
この作品は《第1年》、《第2年》、《第2年補巻》、《第3年》の4集から成るピアノ独奏曲集です。
リストが二十代から六十代にかけて作曲した作品が集められており、
彼自身の驚異的なピアニズムと才能にあふれた絵画的な表現がふんだんに盛り込まれています。
《巡礼の年 第1年スイス》は、1835年から36年にかけて、
伯爵夫人とふたりでスイスへと不倫旅行で訪れたときの思い出に作られた作品と言われています。
全9曲から成る作品集ですが、
今回リサイタルでお届けするのはその中でも突出して長大な作品、
オーベルマンの谷 / "Vallee d'Obermann" です。
フランス人作家であるセナンクールの小説、
オーベルマン/Obermannからタイトルを取っています。
主人公オーベルマンがスイスとフランスの各地を放浪しながら自然の中に感じたこと、
人生への疑問などを友人に宛てて書いた書簡体小説という形で綴られています。
オーベルマンは人生について
「人生を単にやむを得ぬ一つの重荷として耐え忍んできた。」と主張します。
そう、どこまでも暗いこの小説。この本を読むのに何か月費やしたことか・・・。
腱鞘炎で弾けない時期、冬のオランダの灰色の空・・・。
あぁ、、、
この小説は発売当時(1804年)ベストセラーになりました。
フランス革命が終わり現実社会に幻滅した青年オーベルマンに自分自身を重ね合わせる若者がたくさんいたようで、著者自身もオーベルマンを自分の分身のように思っていました。
かくいう私もそのうちの一人です。
彼らが抱えていた悩みと内容は違えど、
私の中を大きく占領するピアノと半年以上距離を置くことになったとき、
私の存在意義や日々の彩りが徐々に薄れていくような気がして、
不安や恐怖に押しつぶされそうになった時期がありました。
そんなときは、人間の本能なのか、大きな自然に包まれたいと思い、
近所の公園へ出かけたり、海を見に行ったり、空を眺めながらぼんやりしたり。。。。
作中、曲中にも感じられる雄大な自然の偉大さにオーベルマンも救われたはず。
かたやリストは演奏会でその美貌と音楽によって女性を失神させてしまう、
いわゆるトップスター的なポジションに位置していましたが、
この小説のことを「自分を癒してくれる本」と言っています。
スターだからこその孤独をオーベルマンの中に探したのかもしれません。
さて、そんなリストの想入れの深いこの曲は、
小説内での主人公の精神の遍歴を見事に表しています。
暗く、悲しく、打ちひしがれ、憂鬱なはじまり。
諦めに聞こえるメロディーが左手で奏でられます。
上りたいのに上れない。
必死に立ち上がろうとも、なかなか今の場所から動けません。
何かを訴えるように右手も話しかけてきます。
疲れ果て、落ち込むオーベルマン。
そこに憧れや、夢、昔の甘い思い出と思える歌が
高音でなつかしく唄われます。
家族、友人、恋人と過ごした幸せな日々。
これから待ち受けているであろう温かな日々。
そう願うもむなしく、
人生への陰陰滅滅な気持ちは簡単に消えません。
劇的な胸の中に眠る不安や、畏れ、怒り、恐怖が大地に鳴り響きます。
・・・こからどう立ち向かうのかオーベルマン!
・・・そこからどう彼を救うのかリスト!
Info:
ソロリサイタル -音のパレット vol.1- ≪Opus青≫
2016年07月09日18:30開演(18:00開場)
チケット受け付けております→こちらから